
新宿駅から、お馴染みのオレンジ色の帯の電車に乗り、途中の青梅で乗り換え、約1時間半。到着するのは青梅線の終点・奥多摩駅です。
奥多摩、そこには都会の暮らしに疲れた人々を癒す自然があります。週末の日帰り旅行にぴったりの場所です。
都会と田舎、景色の二面性を楽しめる青梅線
東京都内で自然があふれる場所は?と聞かれたとき、どこを想像しますか?
新宿御苑や神宮の森といった「都心のオアシス」?それとも八丈島や遠く離れた小笠原諸島などの島嶼部でしょうか?いやいや高尾山でしょ!という人もいるかもしれません。
しかし、上に名前を出したどこでもない、まだまだ知られていない、大自然が溢れる「東京」があるのです。
それが「奥多摩」です。
奥多摩アクセスに利用するのは中央線と青梅線です。
まず新宿駅から中央線・青梅線の青梅行きの電車(ホームのアナウンスで「青梅特快」とか「快速青梅行き」と聞いたことがある人も多いはず)に乗って向かいます。
東京駅や新宿駅から青梅行きの電車に乗ると、立川までは中央線を走り、そこから先、青梅線へと入ります。
中央線の線路は立川を出ると左へカーブし、針路を南西へととりますが、青梅線は右カーブを進み、北西へ向かって走ります。しばらくの間、大きなカーブはなく、線路は直線です。
ここまで、中央線沿線はもちろん、青梅線に入ってもしばらくは東京近郊の都市の風景が続き、車窓に目立った変化はありません。沿線には住宅地が広がり、マンションも目立ちます。
駅前に商業施設が立ち並ぶ駅も多く、まさしく「東京のベッドタウン」と言える区間を走り抜けます。
駅数も多いため駅間距離は比較的短く、頻繁に発車と停車を繰り返します。いかにも「通勤路線」という雰囲気です。
青梅市内に入り、河辺駅の辺りからは車窓に奥多摩の山並みが見え始め、車窓に変化が訪れます。この河辺駅からはそれまで2本(複線)あった線路が1本(単線)となり、心なしか線路も登り坂になっているように感じます。
都心から約1時間で青梅駅に到着します。都心の駅から乗り換えずに来られるのはこの駅までです。
奥多摩駅までは乗り換えてさらに先へ進みます。車内の座席が変わらずロングシート(進行方向に対して座席が横向きに設置されている)なのは少し残念ですが…。
電車の両数もここまでは12両でしたが、ここからは短い4両に。都心の駅では「次の電車は短い10両です」というアナウンスが流れることがありますが、4両は本当に短く感じるでしょう。
青梅まで乗ってきた列車の乗車位置によっては、乗り換え時に歩く距離が長くなる可能性もあるので、体力を温存したい場合、事前に乗車する号車を調べておくのも一つの手です。
青梅線のうち、都心からの直通列車がない青梅~奥多摩間は「東京アドベンチャーライン」という愛称が名付けられています。一部の車両にはこの路線用に特別ラッピングが施されており、運が良ければ乗ることができるかもしれません。
青梅駅を出ると沿線の風景が大きく変わります。これまで車窓のほとんどを占めていた宅地が少なくなり、代わりに自然が広がります。
建ち並ぶ住宅もそれまでのニュータウンのような整然とした雰囲気から、若干古さが目立つものが多くなります。家ごとの間隔も広がり、少しづつ山が近づいてきていることを実感します。
もちろん、マンションや駅前の商業施設はほぼ姿を消します。列車の両側には山々が迫り、線路わきにも草木が生い茂ります。
青梅線は多摩川に沿ってレールが敷かれています。青梅線沿線を流れる多摩川の上流部は、河口部と異なり、川幅は狭く、蛇行を繰り返します。そのため線路もカーブが多く、列車のスピードは上がりません。
列車はその多摩川を左手に見ながら進み、標高を上げていきます。
列車から川を眺めると、ちょっとした渓谷のように見えます。季節にもよりますが、夏には緑が、冬にはうっすら雪景色が乗客を迎え入れてくれるでしょう。こうした自然の景色を見るだけでもリフレッシュ効果があるのでは?と思ってしまうほどです。
途中の御嶽駅は御岳登山の玄関口です。駅の近くには御嶽渓谷や玉堂美術館といった観光スポットがあるほか、歩いて30分ほどの御嶽登山鉄道・滝本駅からはケーブルカーも出ています。
また、近隣のきれいな水を利用した造り酒屋もあり、御嶽駅とその周辺はちょっとした観光地といった風情があります。
御嶽駅を出発すると、次の川井駅からはいよいよ奥多摩町に入ります。
御嶽駅から先は一層、自然の色が濃くなります。木の枝や草木がトンネルのように線路を囲む場所もあり、初夏から夏にかけては緑にあふれた涼しげな景色を望めるでしょう。
鉄橋やトンネルの数も増えてきます。トンネルのほとんどはレンガ造りで時代を感じさせてくれるでしょう。カーブもさらに多くなり、列車のスピードは上がりません。途中にはホームも線路も1つしかない駅も姿を現します。
普段、都心で何気なく目にしているオレンジ色の帯を巻いた電車が、こんな山間にもやってくるのは不思議な感覚です。
最後のトンネルを抜けるとすぐに青梅線の終点・奥多摩駅に到着します。周囲を山々に囲まれていますが、れっきとした東京の終着駅です。
青梅線は、青梅までは東京近郊の通勤路線、そこから先は車両こそ通勤電車ではありますが、見える景色は山間を走るローカル線といった二面性を持つ面白い路線と言えるでしょう。

新宿から行ける自然
ここまでは東京都心からのアクセスや青梅線について紹介してきましたが、ここからは奥多摩町について触れていきましょう。
奥多摩町は東京都の西部、読んで字のごとく多摩地域の奥にあります。
人口は4000人余り。面積は東京都内の市区町村の中で最も広い225.53㎢あり、これは東京都全体の約1割に当たります。また町域の94%が山林であり、自然があふれた町だと言えるでしょう。
町全体が秩父多摩甲斐国立公園内に位置づけられており、林野庁によって森林セラピー基地に認定されています。
森林セラピーとは科学的な証拠に裏付けされた森林浴のことで、血圧の低下やストレスの減少といった心身の癒し効果が検証されているものです。
駅から徒歩圏内には氷川渓谷、氷川キャンプ場など、自然を感じられるレジャースポットが点在しています。
さらに足を延ばせば、ダム湖百選に選定され四季折々の景色が望める奥多摩湖(水道専用ダムでは国内最大規模の貯水量で、その大きさにも注目)、日本百名山のひとつであり東京都の最高峰として知られる雲取山もあります。晴れていれば富士山を見ながらの登山を楽しめ、山頂からは秩父山塊や南アルプスの山々を望めます。
こうした絶景は非日常を感じさせてくれるでしょう。

また多摩川とその支流では渓流釣りができるスポットも点在しています。
自然を目いっぱい浴びるレジャーを楽しんだ後には、奥多摩駅近くの奥多摩温泉で汗を流すのも一興。
帰りはラクラク電車に揺られて都心へ。終着駅であるということは、始発駅でもあるので確実に座って帰路につくことができます。
注意したい冬の気候
注意したいのは冬に訪れる際です。都心よりも大幅に気温が低く、1月の平均気温は1.5℃。降雪量・積雪量は都内で最も多く約50cmにもなります。靴や防寒対策など、雪国に行く装いで訪れることをおすすめします。
自然に触れる非日常を味わいに
電車でラクラク、日帰りで自然を満喫できる奥多摩町。景色・アクティビティともに、都会で過ごす多くの人々にとって、日常の中でこれだけの自然を体感することはなかなかできないことです。
東京駅や新宿駅から電車で1時間半といえば、小田原や大月あたりを思い浮かべる人が多いと思いますが、非日常を味わえる新たなお出かけ先として訪れてみてはいかがでしょうか?
