“関係人口”ってなんだ?地域と都市をつなぐ新しい関わり方

「関係人口」とは、特定の地域(特に地方)と継続的に多様な形で関わる人のことを指す言葉です。
近年、この関係人口という言葉が注目を集めています。それはなぜなのでしょうか。

「関係人口」と「交流人口」、「二地域居住」の違いとは?

「関係人口」と似たような言葉に、「交流人口」や「二地域居住(二拠点生活)」というものがあります。
定義そのものの複雑さのほか、似たような語感でもあり、混同してしまう人もいるかもしれません。まず、これらの言葉の定義を簡単に示したいと思います。

  • 関係人口:特定の地域(特に地方)と継続的に多様な形で関わる人
  • 交流人口:観光・出張などで、定住している地域とは異なる場所を訪れる人
  • 二地域居住:主に生活の拠点を置いている場所と、そことは異なる地域の両方に拠点を構えること

イメージとしては、2つの地域を継続して頻繁に行き来し、地域やそこに住む人々と関わるのが関係人口、観光を含め、ある地域を訪れるのが交流人口、都市部と地方の両方に住まいを構えるのが二地域居住、というところでしょうか。
二地域居住は関係人口に含まれるという言い方もできるかもしれません。

なぜ関係人口が注目されるのか

少子高齢化に伴い、地方の人口減少、人手不足や地域の担い手不足は喫緊の課題となっています。
限界集落という言葉があるように、地方、特に山間部などの都市から離れた人口希薄地帯では、このままではこれまで通りの生活が難しくなる場所もあるでしょう。

国土交通省が2020年に発表した資料によれば、過疎地域にある集落の数は63,237を数え、そうした集落に住む人の総数は約1035万人にも上ります。
しかし、こうした集落の数は年々減少を続けており、そこに住む人の数も、年を経るごとに減少しています。また、高齢化率も増加しており、明確に過疎化が進行していることを裏付けています。

よく言われるのは、そうした地域に住む人々の日常的な交通の便や、買い物をする場所、さらには水道管などのインフラの老朽化の問題でしょう。
しかし、ほかにも地域の催事・祭礼といった文化的側面や、長年の”ご近所づきあい”に代表される近隣住民同士のネットワークなど社会的基盤の維持といった観点の問題もあります。日常生活に関連する問題以外の、地域のつながりやその地域独自の伝統を維持できなくなると可能性があるということが日本全体で起こっているのです。

先に挙げた国土交通省の調査では、集落機能が良好に維持されている集落は約78%であり、これは前回調査よりも減少しています。
また、0.4%の集落が今後10年以内に消滅する可能性があり、約4%の集落が将来的に消滅すると予測されています。

こうした問題に対処するためには、「担い手」が必要になります。

そうした場面で重要なキーワードになるのが関係人口です。

関係人口には多様な形があります。
本業や副業を通して報酬を得る形で地域貢献をすることはもちろん、ボランティアやイベントへの参加、地域づくりへの参画なども含まれます。

例えば、平日は都市部で会社員として働いている人が、週末には地方の農村や集落へ訪れ、担い手不足にあえいでいる農家で農作業を手伝ったり、地域のお祭りの運営に参画したりすれば、地域の文化や社会基盤の維持に貢献し、ともすれば担い手不足の解消につながる可能性もあるのです。

今後は定住人口や交流人口を増やすのではなく、より深く地域との関係を築ける関係人口を増やす仕組みづくりが必要になってくると考えられます。

茨城県・大洗町では

茨城県・大洗町は、東京からもそれほど離れておらず、水族館のほか、海水浴やサーフィンを楽しめるといったことから、人気の観光地で、家族連れをはじめとしたたくさんの観光客で賑わっていました。

しかし、2010年代以降、それまでとは異なる、新たな層の人々が大洗を頻繁に訪れるようになりました。大洗を舞台としたアニメ作品・ガールズアンドパンツァー(以下ガルパン)のファンです。
ガルパン関連のステージイベントが開催される「あんこう祭り」などのお祭りはもちろん、平時であっても週末は毎週のように大洗町を訪れるファンが多くいました。

さらに、多くのガルパンのファンが、アニメ放送終了後も頻繁に大洗を訪れ、作中に登場した商店街で買い物をするなどして、地域住民との交流を深めていきました。そしてその中には、大洗の街自体を好きになり、移住したというファンもいるほどです。

大洗町は過疎地域ではないものの、関係人口を増やし、地域振興を図ることができたという点で、1つの成功事例と言えるでしょう。

大洗町の事例は東京をはじめとした大都市から比較的近く、アニメ作品が契機となったという点で特殊性を含みますが、他の地域でも応用できる部分があるかもしれません。

地域との関係性の構築の仕方は人それぞれ

交流人口は、一過性のものにすぎません。これでは過疎化が進む地域にとって恩恵はあまりないでしょう。

コロナ禍を経てリモートワークを可能にして出社の機会を減少させた企業も見受けられます。そうした企業に勤める人の中には、豊かな自然と、余裕のある住環境を選び、地方に移住した人もいるでしょう。地方に住みながら、本業を営むこともできるようにもなってきています。
しかし、そうした地域が移住者向けの施策を実施しても、都市部に住む若年層にはなかなか響かないでしょう。いきなりそれまでの生活を離れ、移住し、田舎で暮らすという選択には抵抗を持つ人も多いはずです。なにより、利便性で都市には大きく劣ります。
また、いざ本格的に移住しそこに定住しようとするとそれなりの難しさもあります。住環境の変化、特に家族がいる場合には子どもの教育など、相応のリスクを背負うことにもなります。
加えて、既存の地域コミュニティに入っていけるかという不安も付きまといます。

そんなときに有効なのが移住せずに地域との交流を深めることができる関係人口を増やすことなのです。

関係人口の創出は、そんな都市に住む人、地方に住む人のどちらにとっても、win-winな関係性を築くことができるチャンスと言えるでしょう。都市と田舎の二拠点生活を営み、平日は都市部で本業を、週末は地方へ赴いて副業やボランティア活動を行うという関わり方をする環境が、徐々に整えられてきているのです。

人々が地域と関わる方法は人それぞれです。
都市部に住み、都市のコミュニティーに参画するという方法もあります。
しかし、それだけではなく異なる地域に愛着を持ち、積極的に関わるというライフスタイルも良いのではないでしょうか?

過疎地域を維持・存続することの難しさも

一方で、消滅の危機に瀕している集落についてみてみると、その多くが役所や商店などがある街の中心から離れていることが指摘されています。無論、そうした集落は大都市からも離れていることは想像に難くありません。
都市部に住む人々からすると、そうした地域へ訪れるのは、かなりの苦労が伴います。それでも、「その地域と関わりたい」と思わせるような魅力があるか、またそうした魅力を伝えることができるか。過疎にあえぎながらも維持・存続を模索する地域にはそうしたものを見つけて発信する力が求められているのではないでしょうか。

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