
星空保護区認定制度は「光害の影響のない、暗い自然の夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える制度」です。星空保護区に認定されるためには、屋外照明に関する厳格な基準をクリアすることや、地域における光害に関する教育啓発活動などが求められています。
その認定を行うのはアメリカ・アリゾナ州に本部を置くNPO団体・ダークスカイ・インターナショナルです。この団体は1988年の設立以降、「光害」問題に対処してきました。
星空を見えにくくする光害
環境省のホームページによると、光害とは「照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起こるさまざまな影響」のことを指します。
具体的には農地や空といった照らす必要のない場所を明るくすることや、過度に明るい照明、深夜などの不必要な時間帯でも灯り続ける照明などが該当します。
光害は、主に近隣住民への迷惑となることやエネルギーの無駄使いという環境的な問題が指摘されていますが、それだけではありません。天体観測に影響が及び、研究活動に支障が出ることがあるのです。
こうしたことから設立されたのがダークスカイ・インターナショナルです。日本には支部として「ダークスカイ・ジャパン」という任意団体があり、国内の光害問題に対処しています。
星空保護区には5つのカテゴリーがあります。
町や市といった自治体単位で認定されるダークスカイ・コミュニティ、公有・私有を問わず公園が認定対象となるダークスカイ・パーク、都市公園や展望台などの暗い夜間環境を保護・推進するための優れた取り組みをしているものの、近隣の明るい都市の影響により他のカテゴリーでは認定が受けられない場所を認定するアーバン・ナイトスカイプレイスなどです。
日本の星空保護区
日本では以下の4つの地域が認定されています。
| 名称 | 所在地 | カテゴリー | 認定年 |
| 西表石垣国立公園 | 沖縄県 | ダークスカイ・パーク | 2018年 |
| 神津島 | 東京都 | ダークスカイ・アイランド (ダークスカイ・パーク) | 2020年 |
| 井原市美星町 | 岡山県 | ダークスカイ・コミュニティ | 2021年 |
| 大野市南六呂師 | 福井県 | アーバン・ナイトスカイプレイス | 2023年 |
このうち、井原市美星町のダークスカイ・コミュニティと、大野市南六呂師のアーバン・ナイトスカイプレイスはそれぞれ、そのカテゴリーではアジアで初めて認定された地域になっています。
ダークスカイツーリズムとは
最近では、星空保護区の認定を受けた地域が美しい星空を観光資源として活用するという事例が増えてきました。
こうした観光形態を「ダークスカイツーリズム」や「星空観光」などと呼びます。
卯田ほか(2019)によれば、日本における先駆的な取り組みは2012年の長野県阿智村にみられるとしています。
この研究によると、村内にある昼神温泉では宿泊客が減少しており、それに伴う地域経済低迷への危機感から、星空を観光資源とした新たな取り組みが行われています。例えば既存のスキー場のゴンドラやリフトを活用した「天空の楽園・日本一の星空ナイトツアー」やそれに伴うトークショーやコンサートの開催、カフェの開設などです。ツアーの参加者は年々増加したことが報告されており、村に多くの人が訪れるようになっています。
また先に挙げた卯田ほか(2019)によれば、2018年に行われた宙ツーリズム推進協議会の調査をもとに、「星空観望やプラネタリウム鑑賞などの参加者は全国に推計約850万人存在し,今後参加を希望する者は約4,000万人に上るとされ,星空ツーリズムは将来的に観光需要が見込まれる対象として大きな期待が寄せられている」と述べており、伸びしろがあるツーリズムの形態ということができるでしょう。
暗い夜空を観光資源に 各地の取り組み

こうしたことから星空保護区に認定された各地域でも、観光振興に取り組んでいます。
2018年にダークスカイ・パークに認定された西表石垣国立公園では、園内に設置されている屋外照明の一部に改修が必要ではあるものの、専門家が行った夜空の暗さに関する調査では、基準を大きく上回る測定結果となり八重山諸島の星空は世界でも有数の美しさを持つことが証明されています。
こうした特長を活かし、石垣島では2001年から「南の島の星まつり」という星空イベントが開催されているほか、2015年からは星空ガイド育成・認定の事業が行われています。
また、西表石垣国立公園内にはサンゴ礁や熱帯雨林を含む亜熱帯特有の自然環境があり、そこではイリオモテヤマネコなどの希少な動物が生息しています。このような自然を活かした観光とダークスカイツーリズムは非常に相性が良いことは言うまでもないでしょう。
また、東京都の神津島は2020年にダークスカイ・アイランド(カテゴリーとしてはダークスカイ・パークに相当)に認定されました。神津島は東京都心から約180kmのところに位置し、船で約4時間、飛行機では30分で行くことができます。
島を囲む海の水質が良いことからマリンアクティビティなどの観光が盛んです。
ダークスカイ・ツーリズムについては、神津島観光協会の公式サイトで「神津島まるごとプラネタリウム 東京の島で星空さんぽ」と題したページがあり、現地では島民によるガイドツアーが行われるなど、積極的なPRが図られていることがうかがえます。
村では2019年、光害の防止や適正な照明に関する条例を制定しており、美しい星空を守るための取り組みが続けられています。
「星見観光」が地方での新たな観光客の呼び水に
光害の影響もあり、大都市で美しい星空を見ることは難しいのが現実です。しかし地方に赴きさえすれば、美しい星空を眺めることは難しいことではありません。
星空保護区に認定されているかを問わず、地方にはまだまだ天体観測に向いたスポットがたくさんあります。
逆に言えば、地方にとって星は空新たな観光客の呼び水となりうるのです。それは地方で経済効果を生むチャンスでもあります。
しかし、ダークスカイ・ツーリズムは行政や観光事業者のほか、照明の活用や設置への配慮といった点において、地域住民の協力なくしては成り立ちません。この三者が、他の観光施策以上にタッグを組んだ取り組みが求められるという特徴があります。
観光客として訪れる私たち自身も、星見観光をする際は現地の人々の努力に対する感謝と尊敬の気持ちをもって、自身が発する「光」(スマートフォンの明かりなど)に注意して楽しむ必要があるでしょう。
参考
- 環境省「光害について」 https://www.env.go.jp/air/life/hoshizorakansatsu/observe-5.html
- 一般社団法人星空保護推進機構「星空保護区」https://hoshizorahogoku.org/
- 神津島観光協会「神津島まるごとプラネタリウム 東京の島で星空さんぽ」 https://kozushima.com/star/
- 卯田卓矢・磯野巧(2019)観光資源としての星空の構築-沖縄県石垣島における星空ツーリズムの発展を通して-.地理空間第12号(3)


